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目次
市町村及び児童相談所における虐待相談対応について
(令和4年10月6日付け子発1006第3号 厚生労働省子ども家庭局長通知)

「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」について
(令和4年12月27日付け子発1227第1号 厚生労働省子ども家庭局長通知)
 【児童虐待の定義、児童虐待事例について】
  [1]基本的な考え方
  [2]身体的虐待
  [3]心理的虐待
  [4]ネグレクト
  [5]性的虐待
 【児童虐待対応や自立支援に当たっての留意事項】


子発1006第3号
令和4年10月6日

各 都道府県知事/市町村長 殿

厚生労働省子ども家庭局長(公印省略)


市町村及び児童相談所における虐待相談対応について

 平素より、児童福祉行政の推進につき、ご理解とご協力を賜り感謝申し上げます。
 いわゆる「旧統一教会」について社会的に指摘されている問題に関し、政府においては、「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議(以下「関係省庁連絡会議」という。)を設置し、合同電話相談窓口を開設して「旧統一教会」問題に関する相談に集中的に対応するとともに、警察相談専用電話、消費者ホットラインなど関係省庁に係る全国の既存の各相談窓口においても、相互に連携して集中的に対応することとしているところです。
 9月30日に開催された関係省庁連絡会議において、各種相談に応じる際、その内容が宗教に関係することのみを理由として消極的な対応をしないことについて、関係各省庁による申し合わせ(別添1参照)がなされましたので、貴職におかれては本件ご了知頂くとともに、遺漏なく対応頂きますようお願いします。
 また、虐待対応にあたっては、これまでも児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)、児童福祉法(昭和22年法律第164号)等の法令の規定や子ども虐待対応の手引き等に基づき適切に対応頂いていると承知しておりますが、虐待対応の考え方につきまして、下記のとおりお示ししますので、法務局、学校等の関係機関とも連携しつつ、遺漏なく対応頂きますようお願いします。
 なお、今回の関係省庁連絡会議での取りまとめを踏まえ、法務省からは、各法務局・地方法務局に対し、別添2のとおり、「「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議の結果を踏まえた人権擁護活動の強化に向けた取組について(依命通知)」(令和4年10月6日法務省権調第71号法務省人権擁護局調査救済課長及び人権啓発課長通知)が発出され、文部科学省からは、各都道府県教育委員会教育長等に対し、別添3のとおり、「「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議の結果を踏まえた児童生徒の教育相談の取組について(通知)」(令和4年10月6日4初児生第20号文部科学省初等中等教育局児童生徒課長通知)が発出されましたので、あわせてご了知頂きますようお願いします。


1.基本的考え方
 児童虐待防止法第2条各号に該当する行為を保護者が行った場合には、宗教の信仰等保護者の意図にかかわらず児童虐待に該当しうるものであること。

2.具体例
 児童虐待の定義の具体的内容については、子ども虐待対応の手引き第1章の1(2)子ども虐待の定義においてお示ししているところであるが、保護者の宗教の信仰といったことを理由とするものであっても、例えば、
 [1]身体的暴行を加える
 [2]適切な食事を与えない
 [3]重大な病気になっても適切に医療を受けさせない
 [4]言葉による脅迫、子どもの心・自尊心を傷つけるような言動を繰り返し行う
といったことは、児童虐待に該当しうるものであること。

3.その他
 個別の事例に関して、児童虐待であるかどうかの判断は、子どもの状況、保護者の状況、生活環境等に照らし、総合的に判断されたいこと。また、その際には、保護者の信仰に関連することのみをもって消極的な対応を取らず、また、子どもの側に立って判断すべきであること。
(別添1〜3 略)

子発1227第1号
令和4年12月27日

各 都道府県知事/市町村長 殿

厚生労働省子ども家庭局長(公印省略)


「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」について

 平素より、児童福祉行政の推進につき、ご理解とご協力を賜り感謝申し上げます。
 保護者による宗教の信仰等を背景とする児童虐待事案への対応については、「市町村及び児童相談所における虐待相談対応について」(令和4年10月6日付子発1006第3号厚生労働省子ども家庭局長通知)において、宗教の信仰のみを理由として消極的な対応をとることがないようにすること等について徹底いただくようお願いをしてきたところです。
 今般、児童相談所や市町村における相談対応に資するよう、別紙「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」のとおり、児童虐待に該当するものとして想定される事例とともに、こうした事例に対応する場合の留意点や現時点で活用することが想定される支援制度等を整理しましたので、下記とともにお示しします。
 貴殿におかれましては、これらの内容や前記の通知の趣旨を踏まえ、宗教の信仰等を背景とする児童虐待事案について適切に対応いただくようお願いします。


1.相談対応に当たっての基本的な考え方
 相談対応の過程において児童虐待防止法第2条各号に定める児童虐待への該当性を判断するに当たっては、別紙の児童虐待事案の例示を機械的に当てはめるのではなく、児童の状況、保護者の状況、生活環境等に照らし、総合的に判断するとともに、その際には児童の側に立って判断することが必要であること。

2.別紙Q&Aの周知等
 要保護児童対策地域協議会の枠組みを活用するなどして、地域の関係機関等に対し、本Q&Aの内容について積極的な周知をお願いしたいこと。
 また、本通知の内容については、文部科学省から各都道府県教育委員会等、警察庁から各都道府県警察、法務省から法務局等、消費者庁から消費生活センターに対しても周知されるほか、厚生労働省においてSNS等を活用して周知を図ることとしており、これらの関係機関や住民から宗教の信仰等を背景とする児童虐待事案に係る通告等がなされた場合においては、必要に応じて関係機関とも連携しつつ、適切に対応いただくようお願いしたいこと。

3.その他
 現在、厚生労働省子ども家庭局において、別紙の内容について、児童相談所等の職員を対象とする研修等に活用いただけるような研修資料の作成等を検討しているところである。
 また、宗教の信仰等に関し、児童に対する相談支援等のために児童相談所が助言を仰ぐことができる専門機関について現在確認中である。
 これらについては、別途、お知らせする予定であること。
                           以上

宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A

【児童虐待の定義、児童虐待事例について】
([1]基本的な考え方)
問1−1 児童虐待に当たるか否かという点において、宗教関係であることをもって、その他の事案と取扱いが異なることとなる部分はあるのか。
(答)
 背景に宗教等(霊感その他の合理的に実証することが困難な方法により個人の不安をあおるものを含む。)の信仰があったとしても、保護者が児童虐待防止法第2条各号に規定する児童虐待の定義に該当するものを行った場合には、他の理由による虐待事案と同様、児童の安全を確保するため、一時保護等の措置を含めた対応を講ずる必要がある。
 児童相談所や市町村においては、児童の権利条約第14条において、児童の思想、良心及び信教の自由について児童の権利を尊重すべきことが定められていることや、児童の場合には必ずしも自由意思の下で宗教等を信仰しているとは限らないこと等も踏まえ、宗教等の信仰に関する事案についても、児童虐待に該当する行為が疑われる場合には迅速に対応することが求められる。
 なお、以下問2―1から問5−2までにおいて、宗教の信仰等を背景として生じる可能性のある児童虐待事案を例示している。児童虐待防止法第2条各号に定める児童虐待への該当性を判断するに当たっては、これらの例示を機械的に当てはめるのではなく、児童の状況、保護者の状況、生活環境等に照らし、総合的に判断する必要がある。また、その際には児童の側に立って判断すべきである。

問1−2 宗教団体の構成員、信者等の関係者等の第三者から指示されたり、唆されたりするなどして、保護者が児童虐待に該当する行為を行った場合はどのように対応すべきか。
(答)
 児童虐待行為は、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、強制性交等罪、保護責任者遺棄罪等に当たり得るものであり、また、これらの犯罪を指示したり、唆したりする行為については、これらの罪の共同正犯(刑法60条)、教唆犯(61条)、幇助犯(62条)が成立し得る。
 このため、こうした事例への対応に際しては警察と迅速に情報共有を図るなどして適切な連携を図ることが必要である。
 児童相談所においては、児童の最善の利益を考慮し、児童虐待行為について告発が必要な場合には、躊躇なく警察に告発を相談するべきである。

([2]身体的虐待
問2−1 宗教活動等へ参加することについて体罰により強制するような事例については、児童虐待に当たるか。
(答)
 宗教活動等への参加を強制することも含め、理由の如何にかかわらず、児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある体罰を行うことは身体的虐待に該当する。

問2−2 教義に関する講義などの宗教的行事に参加している中で、まじめに話を聞いていなかった、居眠りをしていたなどの理由により、保護者が児童を平手で叩く、鞭で打つといったことは、児童虐待に当たるか。
(答)
 理由の如何にかかわらず、児童を叩く、鞭で打つなど暴行を加えることは身体的虐待に該当する。

問2−3 礼拝、教義に関する講義などの宗教活動等へ参加させ長時間にわたり五体投地等の特定の動きや姿勢を強要する等して身動きできない状態にする行為や、深夜まで宗教活動等への参加を強制するような行為は児童虐待に当たるか。
(答)
 長時間にわたり特定の動きや姿勢を強要する等して身動きができない状態にする行為は身体的虐待に該当する。
 また、児童の就学や日常生活に支障が出る可能性がある時間帯まで宗教活動等への参加を強制するような行為は、児童の発育や児童に対する養育の観点から不適切なものとしてネグレクトに該当する。
 その他、問3―1(答)に記載する行為については心理的虐待に該当するものである。

([3]心理的虐待)
問3−1 宗教活動や布教活動への参加強制や人生選択の強制、激しい言葉での叱責や霊感的な言葉を用いての脅し等により幼少期からの継続的な恐怖の刷り込み等は児童虐待に当たるか。また、児童を宗教活動等に参加させることを目的として、あるいは、児童が参加に消極的であるといったことを原因・きっかけとして、無視する行為、常に拒絶的・差別的な態度をとることについてはどうか。
(答)
 「〜をしなければ/すれば地獄に落ちる」、「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を脅すこと、恐怖の刷り込みを行うこと、児童を無視する・嫌がらせをする等拒否的な態度を継続的に示すことで、宗教活動等への参加を強制することや進路や就労先等に関する児童本人の自由な決定を阻害すること(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等を含む。)は、いずれも心理的虐待又はネグレクトに該当する。

問3−2 児童に対し、特定の宗教を信仰しない者との交友や結婚を一律に制限するような行為(誕生日会等の一般的な行事への参加を一律に制限する行為を含む。)は児童虐待に当たるか。また、日常生活上常時、そうした者を批判する言動を児童に対して繰り返す行為はどうか。
(答)
 児童に対し、その年齢や発達の程度からみて、社会通念上一般的であると認められる交友を一律に制限し、児童の社会性を損なうような場合には、ネグレクトに該当する。また、交友や結婚を制限するための手段として、問3−1(答)に記載する脅迫や拒否的な態度を継続的に示すことや、児童の友人や教師など児童と交友関係を持つ者を「敵」、「サタン」その他これらに類する名を称すること等により、児童に対して強い恐怖心を与えることは心理的虐待に該当する。

問3−3 宗教の教義等を理由とし、児童に対し、童話やアニメ、漫画、ゲームといった娯楽を一切禁止することは児童虐待に当たるか。宗教団体等が認めたもののみに限定するといった行為はどうか。
(答)
 児童の監護教育に資するため娯楽等を禁止する行為については直ちに児童虐待に当たるものではないが、社会通念に照らして児童の年齢相応だと認められる娯楽等について、宗教等を理由に一律に禁止することは心理的虐待に該当する。また、宗教団体等が認めたもののみに限定する行為についても、それが教育上の配慮等に基づく合理的な制限と認められるものでなければ、宗教の信仰等を理由とするものであっても、児童の自由意思を損ねる行為として心理的虐待に該当する。

問3−4 児童に対し、他者の前で宗教等を信仰している旨を宣言することを強制するような行為は、児童虐待に当たるか。
(答)
 児童本人が宗教を信仰していないにもかかわらず信仰している旨を宣言することを強制する行為や、児童本人が自身の信仰する宗教等を他者に知られたくない意思を有していることを考慮することなく、他者に対して信仰する宗教等を明らかにすることを強制する行為(特定の宗教を信仰していることが客観的に明らかとなる装飾品等を身につけることを強制する行為を含む。)は、児童の心情を著しく傷つけるものであり心理的虐待に該当する。

問3−5 宗教団体等が、又は宗教団体等による指示を受けた児童の保護者が、宗教の布教活動について繰り返し児童を参加させる行為は児童虐待及び児童労働に当たるか。
(答)
 問3−1及び問3−2にあるような行為等を通じて児童に対して宗教の布教活動等を強いるような行為についても心理的虐待に該当する。
 その上で、宗教の布教活動に参加させるために、脅迫又は暴行を用いた場合には、刑法の強要罪に該当する可能性もあるため、こうした事例への対応に際しては警察と迅速に情報共有を図る等の連携した対応が必要である。
 なお、宗教上の奉仕あるいは修行であるという信念に基づいて一般の労働者と同様の勤務(受付事務等)に服し報酬を受けている者については、具体的な勤務条件を踏まえて個々の事例について実情に即して判断することとされていることから、こうした者は労働者に該当し得ることに留意する必要がある。
 児童相談所においては、上記の点にも留意し、これらの事態が生じている疑いのある事案については、警察や労働基準監督署と連携して対応する必要がある。

([4]ネグレクト)
問4−1 個別の法令に違反する等社会的相当性を著しく逸脱する行動を教義とし、そうした行動を信者に対して実質的に強制する宗教等に児童を入信(実態として信者として扱われている場合を含む。)させるような行為は、児童虐待に当たるか。
(答)
 問3−1(答)に記載のとおり、児童に対して宗教等行為を強制することは心理的虐待に該当するほか、児童に対して社会的相当性を著しく逸脱する行動をとるよう直接又は第三者を介して唆す者があることを認識しながら、そうした宗教に入信させる行為を含め、行動を防止する行動を保護者がとらないことについてはネグレクトに該当する。
 なお、宗教の信仰等に関する事案においては、保護者が認識していない場合も想定されることから、そうした場合においては、問6−1(答)に記載の内容に留意しつつ、指導等を行うとともに、必要な場合には一時保護を含めて対応を検討すべきである。

問4−2 宗教等の信仰活動等を通じた金銭の使い込み(寄附、寄進等の呼称の如何を問わない。)により家庭生活に大きな支障が生じ、養育環境の観点から適切な住環境、衣類、食事等が提供されていない場合や、児童の小学・中学・高校・大学への登校や進学等の教育機会の提供に支障が生じているような場合については、児童虐待に当たるか。
(答)
 宗教等の信仰活動等を通じた金銭の使い込みの結果家庭生活に支障が生じる場合も含め、児童に対し、養育環境の観点から適切な住環境、衣類、食事等を提供しない行為はネグレクトに該当する。
 同様の行為により、義務教育である小学校・中学校への就学、登校、進学を困難とさせることもネグレクトに該当する。
 高等学校への就学・進学に関しても、児童本人が就学・進学を希望しており、合理的な理由なく信仰する宗教等の教義を理由として就学・進学を認めない行為は、児童の自立を損ねその心情を傷つける行為としてネグレクト又は心理的虐待に該当する。
 大学への就学・進学に関しては、問4―3(答)のとおりである。
 なお、このような事例については、児童が、児童の保護者に対する扶養請求権等を保全するため、保護者に代わって、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律第8条第1項の規定による取消権等を行使できる場合がある。実際に児童が権利を行使するためには、児童が保護者に対して扶養請求をして扶養義務に係る債権を確定した上で、取消権を行使しなければならない。訴訟手続等を行う必要がある場合、本来であれば児童の親権者等である保護者が訴えを提起等するが、親権者が親権の停止を受けている場合等親権者等の法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合には、児童が各請求をするためには、裁判所から特別代理人の選任を受ける必要があると考えられる。特別代理人の選任を受けるためには、裁判所にその選任の申立てをする必要があるが、実際にその申立てをするためには、弁護士が児童のために活動することが手続の円滑に資するため、児童相談所等が対応するに当たっては、弁護士会等の関係機関と連携して対応することが必要である。弁護士会においては、一定の要件を満たせば児童が費用を負担することなく、弁護士に委任をすることができる制度がある。

問4−3 宗教の信仰等を背景として児童が高校や大学等に進学することを認めないような事例について児童虐待に当たるか。
(答)
 高等学校への就学、進学については問4―2(答)に記載するものと同様である。
 また、大学に進学することを認めない行為(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入等の手続の拒否のほか、学費等の必要経費に充てる金銭を得るためのアルバイトを認めないことを含む。)について、それ自体が直ちに児童虐待に該当するものではないが、児童本人が進学を希望し、世帯の経済的状況等に鑑みて進学が可能である(奨学金等の支援を活用する場合も含む。)にもかかわらず、宗教上の教義等を理由とし、
 ・「〜をしなければ/すれば地獄に落ちる」など児童を脅すこと
 ・「世界は破滅するので、学校に行くことは無駄である」など諦めさせようとすること
 ・児童を無視する、経済的な援助を拒む等拒否的な態度を継続的に示すこと
により進学を禁止するような行為は心理的虐待に該当する。

問4−4 児童がアルバイト等により得た収入について、児童の意思に反する形で、保護者が宗教等の信仰活動等に消費(寄附、寄進等の呼称の如何を問わない。)した場合については、児童虐待に当たるか。また、どのような支援が考えられるか。
(答)
 児童の財産管理権を有することに乗じ、児童のアルバイト等により得た収入(高等学校や大学等への就学、進学に関し、児童に対して貸与もしくは支給された奨学金等を含む。)を取り上げ、児童本人の意思に反し、客観的に見て明らかに児童の現在の生活や将来につながらない目的に消費する行為は、児童からの信頼を裏切ることなどにより児童の心情を著しく傷つける行為として心理的虐待に該当する。
 児童がアルバイト等により得た収入は、児童の財産であるから、児童の意思に反する形で、これを児童の現在の生活や将来につながらない目的の下で保護者が消費したような場合には、保護者の児童に対する不法行為が成立し得る。
 また、保護者が宗教団体に唆されて児童の財産を無断で寄附したような場合には、宗教団体の児童に対する不法行為が成立するものとして、児童が宗教団体に対して直接損害賠償を請求し得る。
 さらに、児童相談所長が管理権喪失の審判の申立(民法第835条、児童福祉法第33条の7)を行い、管理権喪失の審判を得た上で未成年後見人選任の申立(児童福祉法第33条の8第1項)を行い、未成年後見人が、児童の法定代理人として保護者に対して扶養請求をして扶養義務に係る債権を確定した上で、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律第8条の規定に基づく取消権等を行使することも考えられる。

問4−5 信仰する宗教の教え・決まり等を理由として、児童に対する治療として必要となる行為(輸血等)を行わないといった行為は児童虐待に当たるか。
(答)
 理由の如何に関わらず、医療機関の受診を合理的な理由無く認めない行為や、医師が必要と判断する医療行為(手術、投薬、輸血等)を受けさせないこと(輸血を拒否する旨の意思表示カード等を携帯することを強制することを含む。)はネグレクトに該当する。必要に応じて、一時保護による緊急対応や児童相談所長による親権停止申立(民法第834条の2,児童福祉法第33条の7)を検討すること。

問4−6 信仰する宗教の教え・決まり等を理由として、児童が様々な学校行事等に参加することを制限するような行為については児童虐待に当たるか。
(答)
 児童本人が学校行事等に参加することを希望しているにもかかわらず、児童に対する適切な養育の確保や教育機会の確保等を考慮せず参加を制限する行為は、宗教の信仰等を理由とするものであっても、心理的虐待又はネグレクトに該当する。

問4−7 児童の養育を著しく怠る場合にはネグレクトに該当するものであるが、背景として奉仕活動や宣教活動といった宗教等に関する活動(修練会、セミナー、聖地巡礼等)がある場合には、児童虐待に当たるか。
(答)
 奉仕活動や宣教活動といった宗教等に関する活動(修練会、セミナー、聖地巡礼等)への参加などにより、児童の養育を著しく怠る行為は、背景に宗教団体等による勧誘等がある場合であってもネグレクトに該当する。

問4−8 児童の進学や就職のタイミングの際に、宗教の教義等を理由として、児童本人の希望や選択を顧みることなく宗教上の教義等の理由により、進路を強制することは児童虐待に当たるか。
(答)
 宗教上の教義等を理由とし、「〜をしなければ/すれば地獄に落ちる」などの言葉を用いて児童を脅したり、児童を無視する等拒否的な態度を継続的に示したりすること、保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等により、児童の進学や就職を実質的に制限するような行為は心理的虐待に該当する。

問4−9 宗教団体等が所有する施設内や実施する行事等において児童に対して暴力行為や言動・態度による圧迫行為が行われているにもかかわらず、保護者がそうした行為に対して特段の手立てを講じないような場合には児童虐待に当たるか。
(答)
 保護者が、宗教団体等の施設内や実施する行事等において児童が暴力行為や言動・態度による圧迫行為その他本書で児童虐待とされている行為を受けていると知りながら、児童の安全を図るための対応を怠った場合はネグレクトに該当する。

問4−10 性被害等の自己の意思によらない形で妊娠をした女児が妊娠中絶を希望しているにもかかわらず、宗教に関する教義を理由として親権者が中絶手術に同意しないような場合には、児童虐待に該当するのか。また、こうした事例についてどのように対応すべきか。
(答)
 未成年の女児に対して人工妊娠中絶を行う場合において、
[1] 女児本人が人工妊娠中絶を希望する意思を明確なものとしており、かつ、暴行・脅迫によって抵抗・拒絶できない間に性交され妊娠した場合又は
[2] 妊娠の継続や分娩が身体的又は経済的に母胎の健康を著しく害するおそれがある場合
であるにもかかわらず、親権者が人工妊娠中絶に同意しないことは、理由の如何に関わらずネグレクトに当たる。
 こうした場合においては、母体保護法指定医師とも連携し、必要な人工妊娠中絶を受けられるようにするため、親権停止、保全申立等の措置も含めて対応を検討すること。

([5]性的虐待)
問5―1 宗教の教義等を学ぶための教育などと称し、児童に対し、その年齢に見合わない性的な表現を含んだ資料を見せる行為や、口頭で伝える行為は児童虐待に該当するか。
(答)
 児童に対し性器や性交を見せる行為や、児童に対してその年齢に見合わない性的な表現(セックス、マスターベーション、淫乱といった文言やイラスト等)を含んだ資料・映像を見せる行為や、口頭で伝える行為は、宗教の教義等を学ぶという名目であっても、性的虐待に該当する。

問5−2 宗教活動の一環と称し、宗教団体の職員その他の関係者に対して児童本人の性に関する経験等を話すことを児童に強制する行為は児童虐待に該当するか。
(答)
 児童に対して自身の性に関する経験を他者に開示することを強制する行為は性的虐待に該当する。また、保護者が直接的にこうした行為をせずとも、そうした行為を児童に対して行わせる場と知りながらそれを防止するための特段の手立てを取らないことは性的虐待又はネグレクトに該当する。

【児童虐待対応や自立支援に当たっての留意事項】
問6−1 宗教に関する児童虐待事案に対応するに当たり、児童への対応や保護者への説明なども含め、特に注意しておくべき事項としてはどのようなものがあるのか。宗教等関係の事案であることについて、通告・発見時点で把握できている場合とそうでない場合とで、異なる部分はあるのか。
(答)
 宗教等に関する児童虐待を受けている可能性のある児童については、保護者から宗教等の教義に基づく考えや価値観の影響を強く受けている場合があるため、自らの置かれている状況を問題として認識し訴えることが難しい場合がある。置かれている状況を客観的にアセスメントし、児童虐待があると疑われる場合には、児童本人や保護者に対して、児童虐待の定義に基づいて説明、指導を行うことが必要である。
 ただし、宗教等の教義に基づく児童への親の行為や考えについて指導によっても改善することが困難である場合も想定され、また、指導等を行ったことを契機として、保護者による児童虐待行為がエスカレートすることや、宗教団体等から家庭に対する働きかけが強まること等も懸念されることから、児童の安全の確保を最優先とし、必要な場合には躊躇なく一時保護等の対応を取ることが必要である。
 また、これらの対応を検討するに当たっては、問6―5(答)に記載する専門機関等の助言も得つつ行うことが重要である。

問6―2 児童虐待に当たる行為を行った事実はないが、宗教等の信仰に関する保護者の行為や、児童の抱える強い不安等を理由として、児童から、児童相談所に対する相談や、一定期間保護者と離れた生活を強く望むような発信があるような場合には、どのように対応すべきか。
(答)
 児童本人からの相談希望に対しては、どのような理由であっても、児童相談所は児童の不安や気持ちに寄り添い丁寧に聞き取りを行う。
 また、家庭からの分離を希望する場合も同様にその理由や児童が置かれている状況を確認し、一時保護を含めた対応を検討すること。
 また、宗教等を背景とする場合においても、親との接触のみをもって児童の心身に危害が加えられる可能性があることに十分注意し一時保護の解除等の検討も含め、児童の安全を図った上で必要な調査を実施するように留意することが必要である。

問6−3 児童相談所に対し、満18歳以上の者から、親の宗教等の信仰を背景とする課題に関して相談がなされた場合にはどのように対応すべきか。
(答)
 家庭からの分離を前提に自立のための支援を希望する場合、児童相談所は自立援助ホームなどの利用について紹介を行い、本人の希望に基づいて入所などの対応を検討することが必要である。また、自立援助ホーム等の利用を希望しない場合でも、18歳以上であることのみをもって消極的な対応はしないことが必要であり、本人の抱える課題を確認し、法テラス、福祉事務所等の関係機関・団体等への繋ぎなど必要な連絡調整等を実施することが必要である。

問6−4 宗教の信仰等を背景として保護者から児童の心身に対して行われる行為について、一つひとつの行為による児童への影響が軽微である場合には、仮に児童の養育環境や福祉の観点から不適当であっても、児童虐待に該当する余地はないのか。
(答)
 宗教の信仰等に関する事案であるか否かにかかわらず、個別事例が児童虐待に該当するかどうかという点を判断するに当たっては、児童の状況、保護者の状況、生活環境等の状況から総合的に判断すべきである。このため、一つひとつの行為が軽微である場合にも、児童虐待に該当する場合もあることに十分に留意し、児童に対して及ぼす影響を総合的に考慮して判断する必要がある。

問6−5 宗教等を背景とする児童虐待を経験した者に対し、想定される公的な支援策としてはどのような事業等があるのか。
(答)
 宗教の信仰等を背景とする課題に関し、各種の相談支援や生活支援等については以下のとおりであり、こうした支援等を適切に利用することができるよう、児童相談所等においてサポートすることが必要である。
 なお、これらの他、児童に対する相談支援等のために児童相談所が助言を仰ぐことができる専門機関等について現在確認中であり、別途、お示しする。

【総合的対応窓口(相談先が分からない場合)】
○法テラス「霊感商法等対応ダイヤル」
「旧統一教会」問題やこれと同種の問題でお悩みの方(こども本人を含む)を対象に、相談窓口情報を案内するフリーダイヤルを開設している。
 経済的にお困りで法的トラブルを抱えた方は、法テラスによる無料法律相談や弁護士費用等の立替えを利用できることがある。
(電話番号:0120―005931(フリーダイヤル))
(メール問合せ)
https://www.houterasu.or.jp/houterasu_news/reikandaiyarumail.html

【金銭・法的トラブルを抱えている方への支援】
○弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口
 家庭内トラブルや児童虐待などこどもに関する問題について、多くの地域の弁護士会が電話や面接で無料の法律相談を行っている。保護者の協力なくこども本人が相談できるほか、児童相談所等からの相談も受け付けている相談窓口もあり、相談方法などの詳細は以下参照。
※相談窓口一覧
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html

【高校生等への修学支援】
 国内に住所を有し、一定の基準を満たす場合は、高等学校等の授業料や授業料以外の教育費の支援を受けることができる。
 授業料の支援(高等学校等就学支援金)は、世帯所得が一定額未満である場合、入学後に学校で手続を行うと、国から各都道府県等を通じて学校に授業料が支援される(学校が代理受領する)仕組みとなっている。
 また、教科書費、教材費など、授業料以外の教育費の支援(高校生等奨学給付金)は、生活保護世帯、住民税所得割非課税世帯であれば、奨学金の支給(返還不要)を受けることができる。
(制度詳細等に関する相談等の窓口)
 [1]授業料支援(高等学校等就学支援金)の場合
  ・公立高校等
   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1292209.htm
  ・私立高校等
   https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1292214.htm
  ・国立高校等
   文部科学省初等中等教育局修学支援・教材課高校修学支援室
   高校修学第一係(電話番号:03−5253−4111【内線3577】)
 [2]授業料以外の教育費支援(高校生等奨学給付金)の場合
  https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/detail/1353842.htm
※上記のほか、都道府県において、貸与型奨学金や都道府県独自の通学費等の支援が存在する場合もあるため、各都道府県に相談すること。

【大学等への進学支援】
○高等教育の修学支援新制度
 大学、短期大学、高等専門学校、専門学校に通う、住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生等を対象に、授業料等の減免措置と給付型奨学金を支給
(より幅広い世帯収入の方を対象に奨学金をお貸しする制度もあります。)
※支援内容や手続きなどの相談窓口
 ○各大学・専門学校等の学生課や奨学金窓口
 ○日本学生支援機構奨学金相談センター
  電話:0570−666−301

【生活困窮している方への支援】
 生活困窮者支援に関する相談窓口(※1)を全国の福祉事務所設置自治体に設置し、支援員が電話や面談等により相談支援を行っているほか、資産・収入が少なく、住まいにお困りの方への一時生活支援事業(一時的な宿泊場所や食事の提供等を行いながら、就労等による自立を支援)を実施している。
 また、ハローワーク(※2)において、一人ひとりのニーズに応じた就職支援を実施しているほか、就労にあたって不安や困難を抱えている若者等(15歳〜49歳の無業の方)を対象とした地域若者サポートステーション(通称サポステ)(※3)において、キャリアコンサルタント等による専門的な相談支援などを行っている。
(※1)自立相談支援機関相談窓口
  https://www.mhlw.go.jp/content/000936284.pdf
(※2)全国のハローワーク
  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/hellowork.html
(※3)全国のサポステ
  https://saposute-net.mhlw.go.jp/station.html

【心のケアが必要な方への支援】
 各都道府県等に設置されている精神保健福祉センター(※)において電話相談を実施している。
 また、社会的な繋がりが希薄な方などの相談先として、24時間365日無料の電話相談として、一般社団法人社会的包摂サポートセンターが寄り添い型相談支援事業(よりそいホットライン)(※※)を実施しており、電話相談に加え、必要に応じて、面接相談や同行支援を実施して具体的な解決に繋げる寄り添い支援を行っている。
(※)精神保健福祉センターの連絡先
  https://www.zmhwc.jp/centerlist.html
(※※)よりそいホットライン:
  0120−279−338(岩手県・宮城県・福島県以外にお住まいの方)
  0120−279−226(上記3県にお住まいの方)

【学校における教育相談】
 宗教に関する悩みや不安を含め、学校において、スクールカウンセラーによる児童生徒・保護者に対する心のケアや、スクールソーシャルワーカーによる必要な機関への仲介を実施。
 また、通話料無料の24時間子供SOSダイヤル(※)によって、電話で相談する児童生徒への支援を行っている。
(※)24時間子供SOSダイヤル:
   0120―0−78310

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